暗闇にうっすらでも明るい陽射しが届きますように
『数時間まえにすごい混乱がありました』と、
静かな口調でスタッフから報告があった。
そうか、遅かったか、
明日は、もう少し時間を早め、
混乱前からのその人に寄り添おうと・・決意しながら
・・・・
(朝ごはん)
*
遠巻きからあらん限りの笑顔で
背をかがめ
側に近寄り、
気分を確かめ、
いけるかなー。
だいじょうぶ・だいじょうぶと。
・
自分と、3年前から知るそのご利用者の心中に問いかけるように、
そっとご利用者のテリトリーに入り
手を握る
『・・だいじょうぶ・・』
顔を近づける
『・・だいじょうぶ・だいじょうぶ・・』
おでこをくっつける。
●
そのご利用者の誕生から今日に至までの
人生を乗り越えてきたその人に敬意を表し
『天よ、心と体の隅々まで届く笑顔をください』と念じながら、
『友人です。前から知っている友人だよ・・」と告げると、
●
お顔が上がり、
真ん丸くなった目が更に丸くなり
まじまじと顔を隅々眺めていただき、
・
目じりが下がり微笑んでいただき
『あなたとどこかであったような気がする。
うれしい・・・あなたとお友達で嬉しい・・』
・
『私もうれしいよー・・』と伝えると。
・
『あなたと出会えたことが嬉しい・・」と
つぶやくような声で
自ら指と指をからませ、
しっかりと絡ませた手をご自分の顔に引き寄せ
そっと頬にこすり、
静かに目を閉じながら
優しい笑顔が返ってきた。
*
(昼ごはん)
*
すると、
顔が正面を向き、視野が広がり
前に座っている男性ご利用者に
『あの人、しっている人』と。
同じ空間に住む男性を指差している。
・
『そうです。あの方は、石原裕次郎さんに良く似た
素敵な男性で、歌が大好すきな方です」と、
告げると
・
目の前の男性は、
嬉しそうに
笑いをこらえ、
肩を上下させ、
大きな笑顔と押し込めた声にならない笑い声が『クックックッ』と届き、
*
苦悩の真ん中にいるそのご利用者も、
『そうねー。どこか似ているわねー。
歌はいいわねー』と
話をあわせていただける力も見せていただき
優しい声がかえってきた。
*****
古いスタッフに
再度、近々で知る事が出来た
追加、既往歴と
現実に起きてくる症状と、
最もその人を深く知ることができた生活歴と
今、表出される心の変化の動きと
なぜ起きるのか、根拠と思われる部分を確認し合い、
*
静かな心の時間に
何もせず、
語らず、
笑顔で、
側により手を握らせていただき
介護者は無の心で奥にしまいこみ、
5分・10分の心の動きを吸い取る心の時間の大事さと、
*
まだまだ残されている
笑顔と、
おもいやりと
会話の力と
食を楽しめる力、
食の形態の変化があっても
器の使い方・彩り・盛りつけを指示させていただく。
*
(夕ごはん)
*
帰宅前の古いスタッフは、
身支度を整えながらロッカーの前で
『そういえば
随分前ですが、ご自分の人生について言っていた事があります」と、
◆
そこそこ、
そこの言葉が大事だよー。
そこを知る事でね。
その人の人生が少しでも理解できるんだよ。
苦しみも。喜びもね。
・・・・・
そうだったんですね・・と。
◆
今日から新年度のスタートだ!
90代を過ぎた最終の人生を丸ごと抱える
大きな課題に取り組むチャンスが再び訪れた。
人生の重荷を下ろさせていただける喜びをスタッフにも
感じていただこう。