話さないと物事は始まらない
話さないと始まらない
A君(40歳代)は、
真面目で、言われたことは何でも黙々と働きます。
しかし、電話の対応や家族への対応は本当に苦手であります。
そこで角度を変え、あの手この手で持っている手法をすべて使い果たしましたが、なんだか反応がありません。
するとA君は、
「お話があります。僕は8ヶ月にもなるのに、まだ人とのコミュニケーションがとれません。
これは、会社にとっても大きな損失であります。4月から働く新入社員は2ヶ月で覚えると思います。だから、僕は3月中で辞めたほうが良いと思います。」と、寂しそうな表情で話に来ました。
「今までの勤務ではどうだったのかな・・」と聞きました。
「今までの勤務は期間が決められていたので継続しますか。どうしますか、というところばかりでした。でも、僕はコミュニケーションが苦手なので、そのほうがずっと楽でした」と顔を下げながら話してくれました。
「僕は、決められたことならどんなことでもやります。そういう仕事しか向いていないんです」と、
「そうか、でもここに来てしまったんだよね。ここはね。そうか、どうしてかなーと、話を聞いていって一緒に探る場所なんだよ。今までにはなかったところだね・・」と、
でも「何か縁があってきたのだなー」と、さらに話を聞いていくと、
どういうわけか今、考えても思い起こせませんが話の展開でJRの列車の遅れの話になりました。
すると力強い口調で「あれは、許しがたいことですね」と、今までになく意見をはっきりといえるのです。
「A君は、本はどんな本を読んでいるのかな、感動した本はあるかな・・?」と聞くと、
「三浦綾子の塩狩峠です」と顔をまっすぐに上げ、
「あの本は実話にもとづいた本です。あの自己犠牲の精神はすばらしい」と話し始めました。
ただただ、驚きとA君の感性に喜びと知らなかったA君がそこにいることで思わず涙が出てきました。
実は、私も過去において人生の辛い時期に本が慰めてくれました。それはやっぱり三浦綾子の本でありました。
また、一昨年も読ませていただいたのが蟹工船の小林多喜二の母親を描いた「母」には胸が痛くなりました。
何かのご縁があると思っていましたが、このような共通するものがA君とありました。
A君は本に興味があることを発見しましたので、
文学ではありませんが二宮尊徳の分厚い本を1ヶ月間貸し出すこととしました。
手渡すとにっこりと素直な穢れのないまなざしで受け取っていただけました。
心を通わすには心を知らなければならないこと、
まだまだ、未熟な自分がいたことをA君に謝りました。
A君は、なるべく夜勤を行いたいと希望があり無理にコミュニケーションを訓練するのではなく、
じっくりと定年まで時間をかけ、退職するときには人とコミュニケーションが図れるようになることと修正しました。
A君との本からの談義がとても楽しみとなりました。