行方不明から安全に戻れる事を願う会 会長からのコラム7月号
中国の故事に「一炊の夢」(陶淵明)があります。
ある日のこと、 街道沿いの茶店に一人の老人(呂翁)が休んでいました。
そこへ一人のみすぼらしい農村青年(盧生)がやって来て二人は仲良くなりました。
盧生は自分のボロ服を眺めながら、大きなため息をついて言います。「立身出世を果たし、将軍や大臣になり、豪華な暮らしをしたい。と思っているうちにもう30歳。情けない限りです」と言い終わると、うとうとと、眠くなってきました。
▼この時、茶店の主はキビの飯を炊き始めたところでした。
すると呂翁は、枕を取り出し「お前さんこの枕をしてごらん。望みを叶えて進ぜよう」
盧生は、横になって、枕に頭を乗せました……。
それからというもの、盧生は、名門の家から嫁をもらって大金持となり、官僚の登用試験にも合格。出世街道をまっしぐらです。知事や長官になり、大きな業績をあげました。そして、最後には総理大臣にまでなったのですが、部下の謀略に陥って無実の罪に問われ、切腹しなければならなくなりました。
「こんなことなら農家のままでいればよかった」と悔やんだところで目が覚めました。
その時ちょうどキビ飯が炊きあがり、僅か30分の夢物語から学んだというお話です。
▼一方、北見市内の福祉施設で生活するM男さんがいます。
比較的能力が高い彼は、いつも恋愛と結婚、そして正社員として働くことを考えています。
施設が用意した自立支援計画では納得できないため、自分で就職活動や恋人探しを行っては失敗を繰り返しています。
最後にはその施設を飛び出すのですが、ここ数年で6か所変わりました。後がありません。
▼盧生は普通の暮らしが嫌で出世を望み、夢で気づきましたが、M男さんは盧生の出発点であった「普通の人の生活や暮らし」を切実に願っています。
近い将来、彼の顔から満面の笑みが見られる日が来ますように心から願っています。合掌。
福祉活動専門員 川窪政俊