天の才を生ずる多けれども
天の才を生ずる多けれども、才を成すこと難(かた)し。
(中略)
少年軽鋭(けいえい)、鬱蒼(うっそう)喜ぶべき者(もの)甚(はなは)だ衆(おお)し。
然(しか)れども艱難困苦(かんなんこんく)を経(ふ)るに従ひ(い)、英気頽廃(えいき たいはい)して一俗物(いちぞく ぶつ)となる者少なからず。
唯(た)だ真の志士は比(こ)の処(ところ)に於(おい)て愈々(いよいよ)激昻(げきこう)して、遂に才(さい)を成すなり。
神から授かった才能をもって生まれた人は多い。しかし、その才能を磨き、自分のものとすることは難しい。(中略)
少年の中には、すばしこく強く、気も充ちており、喜ぶべき者は大変多い。
しかしながら、辛い事や困難なことを経験するにつれ、そのような素晴らしさがなくなってしまい、、全くだめな人間になってしまう者も少なくない。
ただ、本当に大きな心ざしを持っている人は、このような状態になったなら、ますます気持ちを奮い立たせ、ついには持って生まれた才能を開花させるのである。
安政三年 (一八五六年)四月
吉田松陰明辞より